2 〜演出〜
この作戦の第一被害者は沙都子だった。
詩音の視力は意外と良くて、詩音が沙都子を見つけてから、圭一が沙都子を見つけるまで、三十秒程かかってしまった。
詩音は、遠くから沙都子の名前を呼びながら近づいていき、適当に会話を交わしてくれた。
圭一は、このチャンスを逃すまいと銃身を握る手によりいっそう力をこめる。
沙都子に照準を合わせ、トリガーを引く。
ヤバイ!外してしまった。
かといって詩音の好意(といっても先に物凄い理不尽な代価を払わされたが……)を無駄にするわけにはいかない圭一は、残りの弾丸を連射する。
結果。運良く沙都子の右腕に命中。
あたると同時に圭一は叫んだ。
「フハハハハハ!どうだ沙都子!思い知ったかぁ!」
「くうう……油断しましたわぁ……でも圭一さん。レディーにそんな無粋な事はするものではありませんわー!」
「確かに一理ある。だが、今が部活中という事を忘れるなぁ!」
その後圭一は、沙都子の腕を縛り、神社付近まで護送した。
事情を知らない人間が見たら、ただの少女虐待犯にしか見えないだろう。
詩音が事情を知ってて良かった。
いや、それでも結構きつい。
他の三人も同様の手口で陥れ、圭一の勝利となった―――ちなみに、一番手強かったのは魅音だった。いきなりの詩音の登場に逆に警戒心を強めてしまったようだ―――。さらにちなみに、一番簡単なのはレナでした。
故に、全員メイド化。
ちなみに詩音は、魅音がメイド服で現れた時に、しばらく笑い転げていた。(このあと数分。魅音はメイド服の裾をおさえながら詩音を追い回していた)。
圭一は、しばらくメイド(with学生)達と天国を満喫することになった。流石魅音の超絶的に滅茶苦茶な罰ゲーム。
優勝者には楽園。
でも、負けていた場合を想像すると寒気が走る。
ちなみに魅音は、着替え終わってからずーっと、顔を真っ赤にしていた。
そのとき圭一が、「似合ってて可愛いとおもうぞ?」と言うと、もの凄く恥ずかしそうにして、それからは静かになった。
そのときに詩音は腹を抑えながらきゃらきゃらと笑って、
「圭ちゃん……あと一息でお姉ぇ落とせますよ?」
と言って、圭一を困惑させた。
ちなみにそのとき、魅音は追い回したりはしなかった。
あまりにも恥ずかしい台詞で追い回す事さえできなかったか、
先の圭一の台詞で詩音の言葉が入ってこなかったか。
もしくは、ソレはソレで軽く期待したのかは本人しか分からないということで。
詩音は皆の心をかき乱して―――レナには、「お姉に圭ちゃん取られちゃいますよ?」沙都子には「にーにーがお姉に惚れかけてますよ?」ちなみに梨花はいい台詞が思いつかなかった様で、正鵠を期すなら梨花以外の―――全員の顔を真っ赤にして夕暮れと共に興宮に帰っていった。
◆ ◆ ◆
この日から一ヶ月程、罰ゲームは、「ビリがメイド服を着用する」というものから変わる事はなく、9割は魅音がビリになったという。
これは魅音の八百長だろう。
その理由は、
あの日の困惑が融けていなくて混乱しているのか、
圭一の「可愛い」という発言のせいなのか、
自分の女の子らしさを圭一に見せたかったのか。
もしくは、圭一の気を惹こうと思ったか、
はたまたその全てが該当するのか、というのは、魅音の乙女の秘密という事で。
その一ヶ月間圭一は、しきりに魅音のことを気にしていたという。視線が合う度に視線をそらしていたが、またそれは魅音も圭一を気にしているという事。
ちなみにこの間、沙都子は嫉妬しまくりで、梨花はそれを宥(なだ)めるのに苦労していた。
レナにおいては、しょっちゅう魅音と圭一を二人きりにして、良い雰囲気を演出しようとした。
クラスの皆も、この二人の心情がよくお分かり(というか丸分かり)のようで、レナの小さな合図だけで教室から一気に姿を眩ませたりした。
ちなみに、レナの合図で逃げ遅れてしまった生徒は、レナの神速技『お持ち帰りぃ〜!』によって、残像も残らないほどの高速で連れ去られる。
さらについでを言うと、教室のいたるところに、超小型監視カメラ(盗撮用)と盗聴器が仕掛けられており、モニタールーム(教室から廊下を挟んで向かいの教室)に行くと、二人の教室内でのやり取りは全て観る事ができる。
しかもその映像と音声は、沙都子が大容量ハードディスクに漏れなく収めている。
◆ ◆ ◆
そしてこれは部活の時間。
この日、やはり魅音は八百長をしてビリになった。
そして魅音は隣の部屋にてメイド服に更衣中。
この瞬間。沙都子のトラップ(レナ、梨花全面協力)は開始される。
まず三人が魅音の着替えを手伝ってくると言ってモニタールームへ移動。
そこへ、何も知らない魅音が戻ってくる。
露出度が高いエンジェルモートの制服を身に着けて。
「あれ?圭ちゃん、レナ達は?」
「え?お前のところに行くって言ってたぞ?」
二人は共に、脳内にクエスチョンマークを発生させたが、レナが、神速移動で、向かい合っている圭一と魅音の背中を同時に押す。ちなみに魅音側のほうが若干強め。
絶妙な力加減で、圭一と魅音が抱き合う形になる。
そしてレナの追撃。
その体勢のまま、横から同時に突き飛ばす。
沙都子のトラップ同時発動。
二人の落下地点にゴムボールが滑り込み衝撃を殺す。
ちなみに、今、校舎内には、魅音たち五人以外は誰もいない。
これは梨花の演出。
レナは、教室の黒板に、『先に帰ってるね』とその隙に書き込む。実際には向かいの部屋に居るのだけど、圭一たちに知る由はない。
さて、これからどんな会話が展開されるのかは、まぁ次の章であかすことにする。
が、このトラップの黒幕はココで明かそう。
黒幕は、
企画…園崎詩音
計画…古手梨花
実行犯…北条沙都子
の、超絶極悪トリオでした。
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