1 〜部活〜


「圭一く〜ん。こっちだよ〜」
「おーレナ。オハヨー」
 昭和58年、初夏。
 ここは、鹿骨市内の雛見沢(ひなみざわ)村。
 1ヶ月ほど前にここに引っ越してきた前原家。その長男である前原圭一は、近所に住んでいて同じ学校に通っている竜宮レナと一緒に学校に通うのが、ここ毎日の習慣となっている。
「圭一君、今日は遅かったね」
「おお、悪いな。寝坊しちまった」
「あはは。魅(み)ーちゃんにバレたら怒られちゃうね」
 レナのこの台詞がトリガーとなって、二人は殆ど同時に移動方法を徒歩から、ダッシュに変更した。
 この場合通常なら男女の平均的な体力差などから、レナのほうが遅れを取ってしまうだろうが、田舎っ子のレナと、都会育ちの圭一とでは、あまり差がつく事がない。

 約二分後

「レナー!圭(けー)ちゃーん!遅いよー」
 と、約5メートル先から大声で二人を呼ぶ少女。
 彼女こそがレナのいう『魅ーちゃん』こと、《園崎魅音(そのざきみおん)》である。
 魅音は、レナと圭一より学年がひとつ上だ。しかし、《田舎》かつ、超を付加してもよいほどの《少人数》故に、一つの教室に全学年を詰め込んで授業を行う雛見沢分校(ひなみざわぶんこう)では、学年の差などというものは、あってないようなもので、圭一たちととても仲がいい。
そして、魅音は、他の生徒からの人望も厚く学校では《委員長》を務めている。それと、部活では部長も務めている。
 普段は、男っぽい仕草や言葉遣いをしているが、内面…否、本当は、とても繊細な女の子なのだ。
「さてと、じゃあ出発だね。目指せ古手(ふるで)神社(じんじゃ)!」
 今日は日曜日。雲ひとつ無い快晴だ。学校も休み。それ故に、魅音は、日曜日に、古手神社周辺での、超絶的ゲームを企画しているのだった。
 古手神社の境内に圭一たち三人が到着したのは、それから、キッカリ3分後だった。
「魅音さーん。圭一さーん。レナさーん。遅いですわよ〜」
 この奇妙なお嬢様口調を使いこなしている女の子が《北条(ほうじょう)沙都子(さとこ)》というトラップ大好き娘。
「それほど待った訳でもないので構わないですよ〜。にぱー」
 そして、こっちの少々間の抜けた感があるこれまた独特の言葉遣いを披露しているのが、《古手(ふるで)梨花(りか)》ちゃん。
 圭一たちが日々生活しているこの雛見沢村には、《御三家》と呼ばれるものがある。
 御三家の一名が、代々神社の神主を務める《古手》家。もう一名が、村長家の《公由(きみよし)》家。残る一名が、村で一番の権力がある《園崎》家。
 この圭一たち五人の中には、《園崎》と《古手》が居る事になり、この村の中では結構凄い一団ということになる。
「さぁて、みんな!今日のゲームを発表するよ!」
「おお!望む所だ!」
「圭一さんには負けませんわー!」
「手加減しないですよ」
「とりあえず負けたくないかな?かな?」
 と、四者四様に返事をする。
「今日のゲームは〜……これだ!」
と言って魅音は、肩に掛けていたホルスターからエアガンを抜いて圭一に突きつける。
「バトルロワイヤル!」
 全員から賛成の声が響いた。
「制限時間は今から3時間。行動範囲は裏山全域。敗北条件は相手からの攻撃を食らう。たとえタッチだけでもアウト。もしくは、降伏する。負けたらロープで腕を縛られて、ここで待つ。あ、沙都子のトラップは、セーフ。捕まってる時に逃げ出せたらね。その隙に攻撃されたら負けだけど。罰ゲームは……」
魅音は、わざと間を溜めて、
「一位以外の全員メイド服!それじゃぁ、よーい、スタート!」
 スタートの叫び声と同時に皆、山に向かって駆け出した。
 圭一はこの時電話での呼び出し時の魅音の注意を思い出していた。
『あ、圭ちゃん?私。魅音』
『ああ、魅音か。どうした?』
『うん。実は、レナとかにはまだ言ってないんだけど、圭ちゃんにいいこと教えたげる』
『ん?あ、ああ。なんだ?』
『明日の部活だけど、それなりに武装しといたほうがいいよ』
『はぁ?どういう……』
『じゃあね!圭ちゃん』
 こんな感じで半場強引に切られた電話。圭一は念のため、エアガンを装備していく事にした。魅音みたいに、ホルスターを肩につけようかと思い、止める。それは少し恥ずかしい。だから圭一は、ベルトの背中の部分に装着している。
 圭一は、山の中腹で一度足をとめ、辺りを見回す。
(よし。誰も来ていない。)
 回りを確認してから、圭一は歩き出す。
 その途端!足元からロープが上に上っていく。
沙都子のトラップが発動したのだ。
圭一は、ロープで宙吊りにされる。しかも運悪く両足とも使用不可能となった。
やばい!
沙都子が来たら……否、そうでなくとも魅音や梨花ちゃん、レナでもそうだ。触られでもしたら俺はやられる!このエアガンで触られる前に撃つしかない!
圭一はそうおもいエアガンをホルスターから引き抜く。

ガサガサ!

近くで木が掻き分けられる音がする。
圭一は警戒して身を固める。
音はどんどん近づいてくる。
「あ、圭ちゃんじゃないですか。お久しぶりですね」
そこから聞こえたのは魅音……ではない。声音は全く一緒だがこの喋り方は……詩音。
魅音の双子の妹の園崎詩音。
詩音の服装が制服じゃなかったら分からなかったかもしれない。
雛見沢の隣の興宮(おきのみや)に住んでいる。外見は全くの瓜二つなので入れ替わられても気付かないだろう。
「ん?なんで詩音がここに?」
「いえ、久しぶりにお姉に会おうと思って来てたら、圭ちゃんとレナさんと一緒に自転車で走ってるお姉を見つけたんで、こっそり後をつけてきたんです」
それで、いきなり山に散り散りに入っていってしまったから探してみたと。
「それより、なんでそんなところで逆さまに吊られてるんですか?」
詩音は、真っ当な疑問を口にする。
「あ、わかった!沙都子ちゃんのトラップでしょう?」
流石詩音。よくわかっている。
「その通りなんだけど、とりあえずこのロープ解いてくれないか?頭に血が上ってきた……」
詩音は、ふふっ。と短く笑ってから
「いいですよ」
と答えた。
詩音は、鞄からソーイングセットを取り出して、その鋏(はさみ)でロープをスパッと切ってくれた。
「それよりも今何をやってるんです?」
ロープから解放された圭一は、詩音に、大雑把ではあるが粗方の事情を説明した。
詩音は、コノ程度の情報で殆ど全ての事情を察したようだ。
勘がいい。
「圭ちゃん。ちょっと目を瞑ってください」
圭一は軽い不安と疑念に刈られながらも目を瞑る。

キスされた。

圭一は、大慌てで目を開き詩音の肩あたりを押し返す。
「し、し、詩音!」
「うふふ。すいません」
魅惑的な微笑を返す詩音。
「けどありがとう。うん。お礼に圭ちゃんをお手伝いします」
「は?」
「キスさせてくれたお礼に圭ちゃんを勝たせてあげます」
圭一にとってはかなりいい条件だと思う。
「勝たせるって…俺を?」
「圭ちゃんです。ところで圭ちゃん。今日の罰ゲームってなんなんですか?」
「一位以外全員メイド服」
言うと同時に、詩音は笑い出した。
…………魅音が負ける様でも想像したのだろうか?
詩音は、笑いを堪えながら言う。
「これはなんとしても圭ちゃんに勝ってもらわないといけませんね。お姉のメイド服なんて滅多に見られませんから」
圭一の予想は正解だった模様。
「それじゃぁ、私がみんなを探して話をするので、そこを遠くから圭ちゃんがそのエアガンで――」
ここまで言って詩音は、手で銃の形を作って圭一に向け、「ばーん!」と言った。
「――とやっちゃって下さいね☆」
圭一は、その作戦を受諾した。流石にメイド服で村を歩くのはキツイ。いや、それどころではない。
そしてその作戦は決行される。





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