「はぁ…」
 何やってんだろ。私。
 私、四条貴音は765プロのすぐ前の通りのベンチに腰かけていた。
 だんだん日も暮れてきて、熱くて持てないような温度だった缶コーヒーも、もう既に冷たくなっている。
 少し前に天海春香や水瀬伊織が出て行ったから、ひょっとしたらもう既に帰ってしまっているのかもしれない。
 今日、雪歩が家に泊まりに来る。
 実家ではなく、アイドルとして活動する際に都合がいいということで借りたマンションに。
 だからと言って、961の方が若干アガリ時間が早かったからというだけで、なぜここで待っているんだろう…。
 私も浮かれているんだろうか…。
「…雪歩」
「私がどうかしましたか?」
「ふ、ふわぁ!?」
 私がふと名前を口にした瞬間、タイミングがいいのか悪いのか、後ろにその本人がいたのだった。
「い、いつからそこにいたんですか!?」
「え? ついさっきですけど?」
 なんというタイミングで…。
「それより、どうしたんですか?こんなところで…」
「そ、それは…」
「もしかして、待っててくれたんですか」
 雪歩がぱぁっと笑う。
「え、ええ。待ってました、ゆ…萩原雪歩」
 つい「雪歩」と呼びかけてしまいそうになって慌てて言い繕う。
「え〜。なんで言いなおしたんですか?前に約束したじゃないですかー。ちゃんと名前で呼ぶって…」
 上目づかいで私を見上げてくる。
 …………。
「い、行きますよ。……ゆ、雪歩」
「はい!」
「わ、わぁ!」
 名前で呼んだ瞬間、雪歩が嬉しそうに笑って私に飛びついてきた。
「ちょ、ちょっと雪歩! 見られてるから離れてください!」
 ここは765プロの前。
 日も暮れてきたとはいえ、まだまだ人目はなくなったわけじゃない。
「あ、ごめんなさい」
 といったけど、今度は腕をからめてきた。
「雪歩…!」
「いいじゃないですか。これぐらい…」
 その拗ねたみたいな声……!
 …………反則!
 こんなところ、写真でも残されたらっどうなることやら……。
「あ、貴音さん。そのコーヒーもらってもいいですか?」
 私が右手に持っている缶コーヒーを指さして言う。
「いいですけど……。冷めていますよ?」
「むしろそっちの方がいいです。私どちらかというとけっこう猫舌な方なんで」
 それなら、と私はもっていた缶コーヒーを渡す。
「ありがとうございます。…………………あっ!」
「どうかしましたか?」
「そういえばこれ…間接キスですね」
「な!?」
 た、たしかにそうかもしれませんが!
 わざわざ言わなくったっていいでしょう……。
 それを意識したら頬が赤くなっていくのを感じた。
「貴音さん…?どうしたんですか?顔、真っ赤ですよ?」
 雪歩が悪戯っぽく笑う。
 どうもこうも、理由はひとつしかないでしょう!!
 ……意地が悪い。
「貴音さん。間接キスが恥ずかしくなくなる方法があるんですが・・・。しますか?」
 認めるのがなんとなく悔しくて、ただ黙って首肯する。
「ふふ。だったら、目を瞑ってください」
 素直に目を瞑る。
「で、どうするんです?」
「それはですね…」
 急に雪歩にしがみつかれていた左腕が下に引っ張られて、雪歩のてが私の右肩に触れた。
「ちょっと、…………!」
 あ、と思った時にはすでに遅く……。
 雪歩は私の唇に自分のそれを重ねていた。
 重ね合わせて、すぐ離す。
 先にも言ったが、ここは往来の真ん中。
 まばらとはいえまだ人目はある。
「ゆ、雪歩!!」
「ふふ。どうですか? 間接キスぐらいどうってことないでしょう?」
「…………うぅ。屁理屈です」
「屁理屈でも、一応理は適ってますよ」
 いけずです……。
 私の家につくまで…。
 いや、ついても雪歩はこのテンションなのだろうか……。
 うぅ…。








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