「瞳子は誰かにチョコ渡すの?」
「チョコ?」
 昼休み、お昼を一緒にしていた乃梨子さんが私に言ってきた。
「そう。だってもう来週じゃない。バレンタイン」
 今日は2月7日。
 気の早い生徒たちはもう既にふわふわと浮いていた。
 でも私はそんなことも忘れていたのだった。
「そういえば……そうでしたわね。忘れていましたわ」
「え?先週お菓子作りの本一緒に買いにいったじゃない」
 そういえば先週、乃梨子さんにつきあって一緒に駅の本屋まで行っていたことを思い出した。
「祐巳さまにお渡ししないの?」
「え!? ま、まぁ……そうですわね」
 自分でも意味がわからないくらい狼狽していた。
 いったいどうしたんだろう?
「……瞳子?大丈夫?顔真っ赤だよ」
「な、なんでもありませんわ!! それより、乃梨子さんは白薔薇さまにお渡しするの?」
「ええ。お渡しするつもり。志摩子さんは……やっぱり。洋酒とか入れたビターチョコとかがいいかな?」
 そうひとりで妄想にふけっている乃梨子さんの顔がとろけている。
「乃梨子さん。顔がとろけてますわよ?」
 はっとして乃梨子さんが元の顔に戻った。
「……瞳子はどんなチョコを祐巳さまにお渡しするの?」
 祐巳さまにお渡しするチョコレート。
 やっぱり甘い奴だろうか?
「祐巳さまは……やっぱり甘いチョコレートかな?」
「確かにそんな感じがするね」
 どうやら甘党のようだし。
 とろけるくらいに甘いチョコレートに決定。
「瞳子。よかったら一緒に作る?」
「え? いいですけど」
「私、チョコ作りって初めてでちょっと不安なの。瞳子が一緒だとなんか頼もしいわ」
 私もそんなに経験はないんですが……。


   ◆   ◆   ◆


「お姉さま!!」
「な、何? 瞳子!?」
 薔薇の館から帰る途中で、私は祐巳さまを呼び止めた。
「そ、その……お渡ししたいものが……」
「なに?」
 絶対にわかってる。
 だけど、祐巳さまは全くわかってない風を装っていた。
「こ、これ!!」
 私は顔を真赤にして、祐巳さまにチョコレートを差し出していた。
 祥子さまにバレンタインデーでチョコを贈ったことはあるけど、その時はこんなに緊張したりはしなかったのに……。
「ありがとう。瞳子。あけてもいい?」
「は、はい!!」
「……あ! トリュフチョコ。もしかして瞳子の手作り?」
「え、は…はい」
「はむ」
 と、祐巳さまは私の作ったトリュフチョコを一つつまんで口に入れた。
「おいしいよ。実は私からも瞳子に渡したいものがあるんだ」
 といって祐巳さまは鞄をごそごそとして一つの赤い箱を取り出した。
「私から瞳子にも。チョコあげるね」
「え? あ、ありがとうございます!!」
 全然予想してなかったものだからびっくりした。
 けどそれ以上に、こみあげてきた嬉しさが私の胸の内に充満していた。
「ちなみに私もトリュフチョコなんだ。去年、令さまに作り方を習ったからね。今年は去年よりはうまく出来てると思うよ」
 姉妹そろってトリュフチョコとは……。
「行こ!」
「はい」
 祐巳さまが手を差し出してくれていたので、握らせてもらう。
 凍えるような寒さの中、祐巳さまと繋いでいる手だけは温かかった







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