2月14日。
 今日、令たちつぼみは今日は新聞部の企画で、薔薇の館に貼り付け。
 なのに私は図書館にいた。
 その理由は……。
「由乃ちゃん」
「ロ、黄薔薇さま!? ごきげんよう……」
「ごきげんよう」
 私が後ろから声をかけたら、由乃ちゃんは面白いほど驚いてくれた。
 そう。
 私の今日の目的は由乃ちゃん。
「あ、令ちゃんだったら今日は新聞部のイベントで――」
 私の目的を令だと判断した由乃ちゃんは、早々に令の場所を教えてくれようとしている。
「薔薇の館でしょ? 知ってるわよ」
 これから言う筈だった場所を先取りして遮る。
「……じゃあ、どうしてこんなところに?」
「なんでってそりゃ、由乃ちゃんに用があるからじゃない」
「……私にですか?」
 由乃ちゃんが露骨に嫌そうな顔をする・
「……そんなに嫌がらなくたっていいじゃない」
「え!? あ、すいません……」
 私のがっかりした表情を見るのは初めてだったかな?
 ていうか、今気づいたけど、由乃ちゃんもけっこう感情を表に出すタイプだ。
 祐巳ちゃんとはまた違うタイプで。
 ま、どっちも可愛いけど。
「ところで、用って何なんですか? 私は……その……」
 令のカードを探したくてしかたないという感じだ。
「わかったわよ。そんなに令のカードを探したいなら早めに済ませてあげるわよ……」
 軽く図星をついてみたら、あはは…と苦笑していた。
 ………………。
「じゃ、ちゃっちゃとすまそうか。ちょっと目、瞑っててもらえる?」
「え? は、はぁ」
 私が言うと、結構素直に応じてくれた。
 私は、ポケットから一口サイズのチョコレートを取り出して口に含む。
 そして……。
「……!? んっ……んぅ……」
 由乃ちゃんに口づける。
 由乃ちゃんは私から逃れようともがくけれど、もともと病弱だった由乃ちゃんに負けるほど弱くはない。
 由乃ちゃんは抵抗するのが無駄とわかっても抵抗をやめない。
 私の舌を噛もうともがもがしている。
 その舌で由乃ちゃんの口にチョコレートを押し込む。
 

 名残惜しかったけど、誰かに見られても困るのでいい加減に開放してあげる。
「ぷは…! ロ、ロ、黄薔薇さま!! 何するんですか!!!!」
 由乃ちゃんは耳まで真っ赤にして叫んだ。
 ここが図書室ってこと覚えてる?
 ま、しかたないけど。
「ふふ。バレンタインだからチョコを上げただけじゃない。口移しで。」
 由乃ちゃんは真っ赤な顔を手で押さえてうつむいた。
「わ、渡したいなら普通に渡してください!!」
「ごめんごめん。でも、私のファーストキスなんだから、大目に見てよね」
「意味がわかりません!! それに……初めてなのは…私だって…」
「ふふ。だと思ったわ。 けどよかった」
「何がですか!!」
「ファーストキスが、自分の一番好きな人とできたこと」
 言うと、由乃ちゃんは驚きの表情で私を見た。
「じゃあね! 由乃ちゃん!」
「あ、ロ、黄薔薇さま!!」
 私は、由乃ちゃんが叫ぶのを無視して駆け出した。
 いつものほほえみとは違う――幸せで緩んだ顔を見られたくなかったから。
 その上、赤く染まってるし。
 私の……幸せに満ちた顔は、まだ見せてあげない。

 いつか、由乃ちゃんの方から私に歩み寄ってきてくれる日までは。









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