「……で、うっかりお姉さまがカップを割っちゃってね。大騒ぎだったよ」
「……ふーん」
 私の部屋に流れる空気はなんだか奇妙なものだった。
 令ちゃんと一緒にいるのに……いつもの和気藹々とした雰囲気はなく、若干醒めた空気が漂っていた。
 その空気を作り出してるのは私。
 でもその空気を作り出す原因は令ちゃん……。
「そういえば、お姉さまがリップを失くしたって言ってたな……。由乃だったらどこにあると思う?」
「……知らない」
「どうしたの由乃?……気分でも悪いの?」
 令ちゃんったら……。
「令ちゃん……」
「何?」
「令ちゃん……最近浮かれすぎだよ」
「え?」
 毎日部屋に来てくれるのは高等部に入っても変わらなかったけど、『お姉さま』が出来てからは『お姉さま』の話ばっかり。
「……そう、かな」
「そうだよ。令ちゃん最近『お姉さま』の話ばっかりじゃない。なんか……令ちゃんが遠くに行っちゃったみたい…」
「由乃…」
 令ちゃんはそういうところが無自覚だから困る。
 剣道やってるんだからもう少しぐらいまわりの人のキモチを汲めてもいいと思う。
 ていうか、令ちゃんは恋愛感情とか全然理解してない。
 私より乙女なはずなのに……。
「令ちゃんそんなに『お姉さま』が好きなの?私のことをどう思ってるのよ」
「え、そりゃあ、お姉さまだって好きだけど、由乃のことはそれ以上に大好きだよ」
 はぁ……。
 なんか……。
「令ちゃん。今日はこれ以上『お姉さま』の話は無しね」
「うん。……ねえ由乃……私のこと、由乃にはどう映ってる?」
「大好きだし、優しいんだけど、ちょっと無神経」
「無神経……」
「うん。無神経。 でも、それを含めて令ちゃんなんだけどね」
 そう。
 そんなちょっとぬけたところも全部あわせて令ちゃん。
「由乃……」
「でも! もう少し気配りできるように努力すること! じゃないとその『お姉さま』に見限られちゃうかもよ」
「うぅ……」
 ……ちょっと強く言い過ぎたかな?
 私はベッドの上から半分ぐらい身を乗り出して令ちゃんを抱きしめた。
「大好きだよ。令ちゃん」
「うん」
 まったく。
 放っておけないなぁ。令ちゃんは。



END



あとがき


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