「楓、遅いじゃないか」
「勘弁でござるよ。あの双子をネギ坊主のグループにおいたまま、私だけ消えるのは結構難儀でなぁ」
 今日は、私と楓の二人で、麻帆良の外部で行われている夏祭りへとやってきた。
 一週間後に麻帆良学園で「夏祭り」が行われるので、こちらの祭に麻帆良の生徒が参加することはまずない。
 待ち合わせは6時ちょうどで、今は6時半。
 珍しく楓から誘ってきてくれたものだから、張り切って約束より30分以上も早く来てしまった私にも非がないわけじゃないが、流石に待ちくたびれた。
「ま、見え透いた嘘は気にしないでおいてやるよ。早く回りにいこう」
「そういうときは騙されたふりでござるよ。 それはそうと、真名はゆかたも似合うでござるなぁ」
「そうか? ありがとう。楓だって似合ってるよ。さてと、じゃあ遅れた罰としてそこの射的であの仔犬のぬいぐるみでも落としてもらおうか?」
「あいあい♪」

 楓は難なくぬいぐるみを獲得し、私にくれた。
 お返しとして自分は蛙のぬいぐるみを落としてやろうかと思ったが、さすがにそれは大人気ないと思ったからやめた。
「真名ー」
「ん?何だ?」
「拙者はあれが欲しいでござるよ」
 楓が指差した先には、祭ならでは、安そうなアクセサリー屋があった。
「構わないが・・・。そんなに安そうなのでいいのか?」
「あいあい。拙者がかってくるでござるから、真名はここらへんで待ってて欲しいでござるよ」
「ん? まぁいいけど。早くすませろよ」
「了解でござるよ」
 言うと楓は嬉しそうにそのアクセサリー屋に向かっていった。
 楓も私も、中学生の女の子だし少しそういうものも気になったりはする。
 けど私ならもっとちゃんとした店で買うだろうな…。
 まぁそこらへんも楓らしいか。
「お待たせでござるよ〜」
 そんなことを考えていたら、真名が帰ってきた。
「別にそんなに待ってないよ。で、何を買ってきたんだ?」
「これでござるよ」
 といって楓が握っていた掌を開く。
 銀色の指輪が二つ。
 私は、頬がかぁっとあつくなるのを感じた。
「楓? これって…」
「もちろん指輪でござるよ。一つは拙者ので、もうひとつは…」
 そこで言葉を区切って、私の左手をとり言う。
「真名のものでござる」
 言い切ると同時に、薬指に指輪がはめられた。
「か、かえで!?」
「そしてこれは…真名につけて欲しいでござるよ」
 にこっと笑って、左手を差し出される。
 既に指輪は私の右手に握らされている。
「は、はめるぞ」
「うむ」
 私は緊張やらなんやらで顔を真赤にしながらも、なんとか楓の薬指に指輪をはめることに成功した。
「こ、これでいいか?」
「うん。満足でござるよ。さぁて次はどこへ行くかなぁ」
 楓は私の腕をとり、指を絡める。

 私たちは、その後しばらく祭を物色して、寮に帰った時は既に零時を回っていた。
「楓。今日は楽しかったよ。ありがとう」
「うむ。拙者も楽しかったでござるよ。……でも、まだ終わりじゃないでござる」
「え?」
 零時を回った今からできるようなことなど何もないように思える。
「さ、とりあえず真名の部屋に行くでござるよ」
「え、あ、うん」
 うなずくと、楓は私をお姫様だっこした。
「ちょ、ちょっと楓!?」
「さぁ。行くでござるよ」
 楓は私の言葉なんか聞こえないと言わんばかりに私の部屋へと駆ける。


「ふぅ。じゃ、早く入るでござるよ」
「え、ああ、うん」
 扉を開けると、部屋の中からなんだか甘い香りがする。
「実は、真名への感謝の気持ちを込めてちょっと挑戦してみたんでござるよ」
 楓は、ぐいぐいと私の背中を押し、強引に食卓に座らせると、たたっと台所に駆けていく。
「拙者の始めての手料理でござる」
 楓が差し出した皿に盛られていたのは私の大好物のあんみつだった。
「いやぁ、案外大変で少し待ち合わせには間に合わなかったでござるが堪忍堪忍」
 これを作ってて遅れたのか…。
 少しむっとしたけど、どうやら筋違いだったようだ。
「ありがとう」
「あいあい。さ、早く食べるでござるよ」
「うん」
 一口ほおばる。
「おいしい…!」
 楓のあんみつは、初めてとはとても思えないくらいに美味だった。
「よかったでござる」
 楓の口調からは心底安心したような響が感じられた。
「本当に…ありがとう。楓」
「あいあい♪」






topへ戻る
novelへ戻る
ネギま!へ戻る