「志摩子。味はどう?」
「おいしいですよ」
「それよりよかったの? 泊まりに来て?」
「ええ。うちではこういったイベントはやりにくいですし」
 志摩子はカトリックの学校であるリリアンに通っているけど、実家は仏教のお寺というなんかややこしい事情がある。
 だから私は志摩子をうちに誘った。
 せっかくのクリスマスだから、二人で服を買いに行ったり、そこで祐巳ちゃんをみつけたり…。
 学校を卒業したって、私と志摩子の関係は一向に変わらない。
 もっと深いところで繋がっている姉妹だから。
 久しぶりに志摩子と一緒に過ごしたくなったりしたんだ。聖さんは。
 一人だとクリスマスもむなしいものだし……。
「さぁてと。これをお皿に盛りつけて……あ、志摩子。そこのパイオーブンにつっこんどいて」
「はい。お姉さま」
 オーブンのタイマーを適当にセットして……。
「ん?」
 急に志摩子が後ろから抱きついてきた。
 普段こんなことしない娘だから私はすっごく驚いた。
「どうしたの?」
 できるだけ動揺を隠してきく。
「いえ……。お姉さま、少し早いですがお誕生日おめでとうございます」
「……ああ、ありがと」
「お姉さま……。驚きましたか?」
「そりゃ驚いてるよ」
 志摩子の腕を少し浮かせて、正面に回して抱きしめる。
「どうしたの?急に」
 できる限り、優しく聞いてみる。
「ちょっと……甘えてみただけです」
 その時、ちょうどオーブンからタイマーの時間が来たことを告げる。
 志摩子はさっと走って行って焼きあがったパイを取り出した。
「パイも焼けましたし、いただきましょうか。お姉さま」
 志摩子にしては珍しく、顔が真っ赤に染まっていた。
「志摩子」
 配膳しながら、声をかける。
「はい?」
「もっとあまえたっていいんだよ? 志摩子はいっつも謙虚だし、私が卒業してからは、志摩子は一回も大学舎にきてくれないし……。我慢ばっかりしてたら駄目だぞ?」
 クリスマスの魔法か、いつもよりもちょっぴり優しい聖さんなのだ。
「……はい!」
 志摩子はいつもより明るくほほ笑んだ。

 この笑顔をずっとそばに置いておきたいな。

 とか思うのは、私のわがままだろうか?








あとがき

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