「ひびき〜!」
教室中。
いつものように、はるかが私を呼ぶ。
いつも人目も憚らないで、大声で呼ぶものだからいつも周囲の視線が集まって来るんだけど、それももう慣れっこだ。
「どうしたのよはるか?いつものことだけど大声出して。」
「むー。失礼ね」
何が失礼なのよ…。
胸のうちでつっこみをいれつつ、はるかの話を促す。
「で、何なの?」
私から促してあげないとはるかは話を忘れたり、まったく関係ない話題に食いついたりするから。
「ええっとね…。その…」
「あの子のこと?」
「いや…、まぁ…違わなくもないわ」
もろにストライクね。
「で、どうしたのよ?」
「いや、…その、年下の子と付き合うって…どういう感覚なのかな…」
「難しいことを聞くわね。残念だけど私にその経験はないから具体的なことはいえないけど…。割と普通だと思うわよ」
最近、はるかは二年生のあの子に夢中だ。
いつもの興味本位ではなくて……最初は興味だっただろうけど、少なくとも今は、確実に恋愛感情を持って彼と相対している。
楽しそうに笑うあの子とはるかをみていると、嬉しい反面、なんともいえない寂寥感がある。
なんだろう。はるかとは長い付き合いのつもりなんだけど。
いや、実際に付き合いは長いし、だからこそわたしははるかの恋を応援したいと思ってる。
でも、私は……。
我侭なのは分かってるけど、少しだけど、はるかの気持ちを独占していたい。と、感じてしまう。
はるかの困ったような顔、喜んだ顔、怒った顔、拗ねたような顔。時には泣き顔。
その全てを、私のものにしたい。
そんな感情が確かにある。
けど、世間的に受け入れられるはずがないことも理解している。
はるかは、私のこの気持ちを知ったところで、私を倦厭たり、邪険にしたりはしないんだろうけど、きっと受け入れてはもらえないだろう。
でも、あの子ははるかの全てを知れる気がする。
羨ましいし、少しは妬ましさがないわけじゃない。
けど、わたしは、何よりはるかの笑ってる顔を見たい。
喜んでいる顔が見たい。
だから私は、自分のこの気持ちを隠して、はるかのことを応援する。
私にできる全力を尽くして、応援してあげてもいいとおもっている。
「普通……かぁ。難しいよ」
「そうかもね……」
「ひびき?」
「え? 何?」
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
いつも鈍感でぽけーっとしている割には、たまーに勘が鋭いことがある。
「別に…。なんでもないわよ」
「本当に?」
「ホント」
いまいち納得してないなこいつ。
「……じゃあ」
「うん」
「しばらく抱きしめていて」
「え? ふふっ。ひびきがそんなこと言うの珍しいね」
「いいでしょ」
「うん!」
椅子に座っている私を、はるかが後ろから優しく抱きしめる。
この温もりを。
あの子も知ることになるのだろうか。
それにはやっぱり、嫉妬しちゃうな。
でも、私はこれからも、はるかの親友の位置に甘んじていよう。
はるかのこと、頼んだぞ。しょーねん。
topへ戻る
novelへ戻る
アマガミへ戻る