春休み、わたしたち山百合会のメンバーは、祥子さまの家に遊びに来ていた。
始業式は四月三日。
 三月三十一日までみんなの都合があわず、結局は三月三十一日から、四月二日までの三日。春休みの最後を目いっぱいみんなで楽しもうということになった。
 そのみんなというのが、私、福沢祐巳と、私のお姉さまで次期紅薔薇さまである小笠原祥子様。私と同学年の島津由乃さんと、由乃さんのお姉さまで、次期黄薔薇さまである支倉令さま。私と由乃さんと同学年にして、次期白薔薇さまの藤堂志摩子さん。それに、先日卒業なさった、水野蓉子さま、鳥居江利子さま、佐藤聖さまを加えた八人。
 つまり、このお泊りは、先代の薔薇さまたちの、最後のお別れ会も兼ねていたりもするのだ。


 一日目は、トランプやUNOといった、家庭向けの定番ゲームや、ツイスターゲームみたいなパーティーゲームなどを、各薔薇ごとに競ったり、学年別で競ったりした。
 このメンバーじゃないと、このゲームもこれほど面白くなったりはしなかったと思う。
 と、同時にこのメンバーと一緒にいられてよかったとおもった。


 そんな楽しい時間はすぐに流れてゆき、すぐに夜になった。
 夜は、各ファミリーごとに部屋を分けて、三つの部屋で眠りについた。
 何故かわたしは、祥子さまと蓉子さまにはさまれて寝る形となった。
 祥子さまが真ん中にくると、当然のごとく思っていたからちょっとびっくりした。
 左に祥子さま、右に蓉子さま。
 共にリリアンを代表する美女に挟まれては、ゆっくり寝れるわけもなかった。
 うぅ。明日は寝不足だぁ…。



   ◆   ◆   ◆



 そして、二日目の朝。
 とても爽やかな目覚めとは言えなかった。
「祐巳ちゃん!! 祐巳ちゃん、起きて!!」
 蓉子さまが、穏やかではない表情で私を揺さぶっている。
 寝起きがいいほうじゃないわたしでも、こんな表情の蓉子さまをみたら、眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。
「え? ど、どうしたんですか!? 蓉子さま!!」
「祥子が急に倒れちゃったのよ!!」
「え!? お姉さまが!?」
「そうよ。祐巳ちゃん、祥子の部屋の場所覚えてるでしょ? 早く行ってやって」
「は、はい! で、でも蓉子さまは?」
「私は他のみんなも集めていくから、ほら早く!!」
「は、はい!!」
 蓉子さまにせかされて、私はパジャマ姿のまま、広い小笠原家の廊下を全力で駆け出した。



   ◆   ◆   ◆



「祥子さま!!」
 部屋の前につくなり、勢いよく扉を開けた。
 そしてそれと同時に部屋中に笑いおこった。
「……へ?」
 私と蓉子さまを除いた全員が部屋の中にいた。
「あ、あの。お姉さま……これは、いったい……?」
 私がやっとの思いで聞くと、志摩子さんが言った。
「祐巳さん、今日の日付言ってみて」
「三月…じゃない、四月の一日?」
 私が答えを探していると、祥子さまが答えを教えてくれた。
「うふふ……四月馬鹿、エイプリルフールよ」
 そう、今日四月一日はエイプリルフール。
 嘘を吐いても冗談で済まされる日。
「はぁ……」
 わたしが床にへたり込むと今度は小さく笑いがこぼれた。
 そんな中、祥子さまがわたしのほうに近づいてきて、わたしに言った。
「でも嬉しいわ。ありがとう、祐巳」
 祥子さまが私を抱きしめてくれる。
「仲いいね〜」
 聖さまがちゃかすように言った。
「聖さまだって、人のことを言えたものじゃありませんわ」
 そういった聖さまは、志摩子さんを抱えて座っていた。
「一番べったりなのは内の子達じゃない?」
 江利子さまが、自分ではなく由乃さんと令さまを指差して言った。

 みんなに笑いがはしる。
 蓉子さまも戻ってきて、雰囲気から大体のことを察したらしく、一緒になって笑っていた。


 いつまでも、この楽しい時間が続いて欲しいと思った。
 
 それは無理なことだとはわかっている。

 時間は人を一箇所にとどめておいてはくれない。

 だからこそ、

 みんな一緒にいられる今、

 その幸せを満喫するのだ。

 掴まえたら、

 決して離さないようにして。







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