気温も冷えてきて、どんどん冬に近付いていく景色の中、私は薔薇の館を目指していた。
 下校時間のピークも過ぎて、人影もまばらなこの通りを歩いていると、なんだか不思議な感慨が湧いてくる。
 私はもうこの学校の中の人間じゃないというある種の疎外感。それでも、私の存在はまだ消えてはいないんだというある種の温かみ。
(……私らしくないな)
 自分が感傷的な気分になっていることに気がつき、軽く自嘲する。
 さて、と。
 気がつけば目的地である薔薇の館はもう目と鼻の先だった。
「……さぁて。行くか」
 あえて口にして、私は自分気持ちを切り替える。
 扉を開き、つい先日まで慣れ親しんでいた空間なのに、なんだか少し懐かしく感じる階段を登る。
 そして、クッキーのような扉に手をかけ、扉を勢いよく開け放って言った。
「とりっくおあとりーとー!」
「ろ、白薔薇さま!?」
 ふむ。
 祐巳ちゃんのリアクションは思い通りかな。
 志摩子は……っと。
 ポカンとしてる。
 うん。予想通りといえばまあ予想通り。
「お姉さま……。どうなさったんですか?いきなり」
「ん?いやぁ、言ったまんまよ。ハロウィンだからね。久しぶりに遊びに来ただけよ」
 まぁ、久しぶりに志摩子の顔を見たかったっていうのが、一番大きな理由だよ。
 なんてね。
 言葉にはしないで、心の内に秘めておく。
 伝えなくても、志摩子には無意識下で伝わっているんじゃないかな。
「由乃ちゃんは剣道部かな…。乃梨子ちゃんは?」
「乃梨子は今日は仏像仲間とどこかに行くらしいです」
「あいかわらずさねぇ」
 ていうか、今日は二人きりなのね。
「志摩子〜。こっちおいで」
「? どうなさいましたか?お姉さま」
 椅子に座った私の前に来た志摩子を「後ろ向いて」と、私に対して背中を向けさせる。
「あの? お姉さま?何を?」
 くるなり背中を向けるように言われたらそれは困惑するよね。
 うん。
 実に志摩子らしい反応だ。
 私は志摩子の腰に手を回して、私の膝の上に無理やり座らせる。
「わっ!」
「……。イヤ?」
「……いいえ」
 バタン。
 扉の閉まる音がした。
 祐巳ちゃんめ…、変な気を回したな。
「祐巳ちゃんも出て行っちゃったけど…しばらくこのまんまでもいいよね?」
「はい」
 やっぱり志摩子はいつもの志摩子だ。
 乃梨子ちゃんのおかげで志摩子も色々変わったけど、やっぱり芯はいつものまま。
 これからもずっと離さない。
 この娘だけは、たとえ何があろうとも。








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